自動車産業を中心に派遣労働者の雇い止めが多数発生した福岡県で7日、人手不足が深刻な農業分野への再就職を失業者に促す取り組みが始まった。政府や与野党が議論を始めた「緑の雇用」政策を先取りする新たな施策と県は意気込むが、当の農業関係者からは「農業の基盤そのものが弱まっているのに、失業者の受け皿になるゆとりがあるのか」と戸惑いの声が上がる。
福岡県飯塚市と田川市の地域農業改良普及センターで始まった就農相談会が、この取り組みだ。同様の相談会は県内にある残り九つのセンターでも13〜15日に開くほか、10日には福岡市のアクロス福岡でも開催する。
相談会は新規就農希望者向けに年2回開いてきたが、今回は再就職支援の趣旨を加えた。再就職相談者には面談のうえで、野菜作りや畜産など希望する農作業の種類などを記す「登録カード」を出してもらう。カードに記した内容に沿った募集があれば、該当者にすぐに連絡する計画だ。
県後継人材育成室には問い合わせの電話が昨年末から相次いでいる。「アクロスでの10日の相談は、新規就農相談者が40〜50人とすれば、倍以上が失業者の再就職の相談になるのでは」と納戸(のと)勝室長は手応えを感じている。
育成室によると、90年に7万5164人いた農業従事者は、05年で6万1188人と減少。65歳以上の割合は90年の24%から05年の53%に急上昇し、数年後には深刻な担い手不足になると予想されている。一方、07年度の県内の新規就農者は168人。それだけに育成室は、今回の不況を「農業にとっては後継者難という危機を克服する好機」とみる。失業者の多くは農作業に縁が薄いとみて、チームで作業する農業法人への就職を想定している。
だが、受け皿にと期待される農業法人側の受け止め方は複雑だ。
経営者4人と従業員約40人で年間1200トンのシメジを栽培している福岡県大木町の農事組合法人「きのこの里」の水落重喜理事長は「確かに農家の人手は不足している」と話すが、一方で「高い給料は出せない。都会で年に500万円の所得を得ていた人が、200万円でもいいと言うだろうか」と疑問を示す。
06年の県内の農家の年間所得は1世帯あたり507万3千円。うち農業で得られる所得は81万9千円だ。JA福岡中央会は「肥料や原油の高騰でコストがかかるなかで、再就職を希望する人を雇う余裕はないのでは」と指摘する。
県では、相談会を通じて農業分野への再就職を希望する失業者がどれくらいいるのか把握したうえで、再就職を受け入れる法人への人件費の補助を予算化する考えだ。
「まずは雇用してもらうが、補助が切れた後も雇ってほしい」と納戸室長は期待する。水落理事長は「きちんと受け入れられるように、農業自体の基盤が強くなるような政策が必要」と注文している。
(2009年1月7日 asahi.com)

